NYタイムズのグレイシー記事。深く、詳細に渡って彼女の歩みが。😭😭😭

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自分の姿を見ることに耐えられず、家中の鏡を覆ったあの日が危険信号だった。
しかし、それに気付くものは誰もいなかった。
そして、五輪のスターダムにのし上がる寸前だったグレイシー・ゴールドは、自分を助ける手段を持ち合わせてはいなかった。

デトロイト郊外に身を潜めた彼女は、あまりにも電気を消したまま過ごしたため月の電気代がわずか20ドルだったこともあると言う。24時間眠り続け、3日間まるまる覚醒しているような生活を送っていた。
髪をとかし歯を磨けた日は上出来な部類だった。
五輪金メダルの夢？それは、彼女が必死に蓋をしようとしていた緩徐な崩壊の中で、とっくに泡と化していた。

2014年の彼女はそのお団子、真紅の口紅、気品からグレースケリーに擬えられる10代の神童だった。その輝くような性格はあまりに眩しく、ときに彼女が五輪個人メダルを獲得していないことを忘れさせるほどだった。

3年後、暗いミシガンの冬、ゴールドは自分の人生が崩れていくのを感じ取っていた。家族を遠ざけ、禁断の食べ物を暴食し、五輪が翌年に迫っているのにもかかわらずリンクまで15分の運転をする気力さえも出せずにいた。
自殺し大家が集金に来るまで遺体が見つからないことまで考えた、と初めてその鬱病について詳細に語るゴールドは話す。
「何ヶ月も希死念慮がありました。デトロイトの時のままなら、きっと死んでいたでしょうね。」

今週、アメリカのトップスケーターたちは、ゴールドも復帰の第1章として参加を予定していた全米選手権のためにデトロイトに集結している。しかし、彼女はそこにはいない。まだ。
彼女自身が気づいたように、メンタルヘルスからの復活は困難を伴い、足場をしっかり固める必要がある。

自身の人生がうまくいかなくなるまで、精神疾患をゴールドが理解したことはなかった。
「誰かが落ち込んでる、って聞いても、「もっと強くなりなよ」と思ってた。」と話す。
自身もスケートの経験を持つスポーツサイコロジストキャロライン・シルビーによると、これはエリートアスリートには多い心理だという。ゴールド本人を診察したことはないが、こういった神童にはよく関わっている。
「先天的なものもあります。五輪がどうであろうと、遺伝的に問題を抱えている人もいる。それ以外には、習慣やアスリートを健康的で普通の人間から遠ざけるような練習を通して発症するものもあります。」
フェルプス、ボンらは近年自身の鬱病体験について公表しているアスリートの一部だ。

ゴールドは昨秋、著明な体重増加を招いた摂食障害についても含め、自身の体験について公表することに決めた。いくつかのインタビューを受けたが、皮肉なユーモアを見せる一方で、オーバーサイズのスウェットやジャケットで体型と肌を極力隠していた。
その時点では増加した体重の半分は落としていたが、タンクトップやショートパンツなどを着るには抵抗があったという。

ゴールドが最も心安らぐのは氷の上だ。9ヶ月前、彼女は新しい考え方、問題との向き合い方、そして最悪の時でも完全には捨てていなかった五輪の夢との付き合い方を助けるべく新しく編成されたサポートチームで武装して、そこに戻ってきた。
全米選手権の出場資格を得るため、コーチの反対を押し切りハイレベルなロシア大会にエントリーした。プログラムを作る時も人生においてもそうだが、ゴールドはドラマチックなものを好む傾向があり、崩壊の始まりだったデトロイトは復帰の舞台としてあまりにも魅力的に思えたのだ。
だが、準備は間に合わなかった。
2週間前、全米選手権の棄権を発表した。モスクワでの演技がその決定に大きく影響した。7ヶ月に満たないトレーニングのツケは大きく、SPで無残な演技をした後FSを棄権する事態になったのだ。
それに、ミシガンに帰る心の準備ができていなちことにも気づいた。12月には、あまりにもデトロイトでの想い出が辛いあまりに、カリフォルニアに帰るのにもデトロイト経由のルートを避けてしまったほどだった。

ミシガンで底を打ったのは確かだが、彼女の崩壊はもっと早い段階で始まっていた。

ゴールドと彼女の双子の姉妹カーリーは40分の間隔をあけ1995年8月17日に誕生した。家族は、グレイシーが先陣を切って産まれてきたのは自然なことだったと話す。子供時代のゴールドは、常に一番で完璧でいることに固執していたからだ。
学校ではたった一つの単語のスペルを間違えただけで、泣いて怒りながら文章全てを消しゴムで消した。2年生になる頃、彼女はその強迫症をぶつける場所をスプリングフィールドの自宅近くのリンクで行われていたスケートのレッスンに見出すようになった。
カーリーも数ヶ月後後を追い、良い滑りをしたが、ライバルになることはなかった。グレイシーと違い、彼女は完璧でいることよりも人生を楽しむことを得意とする性格だったのだ。
「カーリーは、エリートアスリートになるために必要なことをしなかった。正常と異常な精神状態を分けるその一線を超えなかったのね。」

ゴールドの野望は、10年間のうちに何度も転居することにつながった。10代の間はどこに行くにも元救命ナースの母と妹が同伴した。双子のスケートのスケジュールは母の人生を支配し、麻酔科医である父はミズーリに留まり金銭的なサポートを続ける週末だけの親にならざるを得なかった。
ゴールドの母は言う。
「イリノイのスポーツサイコロジストに、「一つのところにとどまることはできないの？」と聞かれたことを思い出します。「スケートはそうはいかないの、優秀なコーチはほとんどいないのよ」と答えました。」

ゴールドがスケート界に入った頃、それまで多くのチャンピオンを輩出していたUSFSは干ばつ期を迎え、このスポーツの人気は年々落ちていく最中であった。
ゴールドはアメリカの不運を覆す、ハリウッドスターから王妃になったグレースケリーのような存在と目されるようになった。ゴールド自身は自分をそのように見てはいなかったが、その比較は嬉しく、やがて彼女は周りの目線を反映させ憧れの存在としてグレースケリーの名を挙げるようになっていた。
「まるで別人格を作り上げたようでした。一番完璧で、天使みたいで、人工的なバービードールみたいな顔で、完璧な振る舞いと発言をする人になりたかった。完璧すぎて人に嫌われるくらいになりたかったんです。」

10代半ばになるまで、体重のことを気にしたことはなかった、とゴールドは言う。何も考えずに練習前にチョコレートミルクをカートンで飲み、成長期の体はすぐに練習でカロリーを燃焼した。
ある日、スケート界ではよくあることだが、コーチの前で体重計に乗るように言われた時の体重は、124ポンド(56.2Kg)だった。
「かなり体重あるね。」と言われたのをよく覚えている。
その言葉に傷つき、インターネットでダイエット法を検索するようになり、若い女性がダイエットのコツを話し合うサイトに行き当たった。1日200から400キロカロリーで過ごすことを提案する書き込みもあった。ゴールドは、負けず嫌いがムクムクと首をもたげるのを感じていた。
「最初は私のドラマチック好きで試したがりの性格から始まったことだったんです。どこまでできるかしら？って。」
母の、魔法みたいなダイエットはないのよ、という助言を無視し、2000キロカロリー摂っていた食事を数百まで減らした。トマトとコーヒーだけで過ごす日もあった。
「体重が減れば減るほど、氷の上で早く動けるようになりました。スケートはうまく行くし、皆に見た目を褒められるしでウィンウィンだったの。」
母は、娘が急激に痩せたことを心配し、ソチ前にはなんとか食べさせようと説得していたことを思い出す。
「あれはビクビクするような状況でした。」と母は話した。

短期間に初の全米タイトルを獲り、ソチの団体メダルに貢献し、個人でも4位入賞を果たした時の体重は118ポンド(53Kg)だったという。
その後の2年間は、ファッション撮影やテイラースウィフトのようなセレブとの関わりの中で目まぐるしく過ぎていった。

そして、2016年、ボストンでの世界選手権が行われた。2度目の全米タイトルを獲得したばかりの彼女は、10年間で初めてワールドのメダルを手にする準備は万端なように見えた。
しかし、SP1位で折り返した後、フリーではミスを重ね、完璧な演技で銀メダルを獲得したアシュリー・ワグナーより2つ順位を下げた4位に終わったのだ。
ゴールドは打ちひしがれた。
母のデニースは言う。
「あれは、彼女だけの痛みではなかったのです。家族の痛み。エージェントの痛み。国全体の痛み。皆を失望させてしまったという気持ち。」

数ヶ月のうちに、彼女の心と体は悪化していった。
2016年の夏、コロラドスプリングズで行われたUSFSのキャンプに姿を現した彼女は、その5ft5in(165cm)の体に、余計な20ポンド(9Kg)の体重とと不機嫌な顔を携えていた。
ゴールドは抑鬱状態にあり、その食べ物との不健全な関係は暴食と拒食のサイクルを辿るようになっていた。
彼女のライバルであったワグナーは、その個人的な戦いを瞬時に見抜いていた。
最近、当時を振り返りワグナーは
「まるでそこには誰もいないみたいだったわ。見ていてとても怖かった。」と話した。
ワグナーは連盟職員にゴールドの具合が悪く、助けが必要に見えると注意を呼びかけた。
USFSAのプレジデントであったAuxierは、資格を持つ精神療法師やスペシャリストを擁する連盟はすぐに行動を起こしたという。しかし、ゴールドへの救いの手が受け入れられることはなかった。
「あの時もっとグレイシーに強要していたらどうだったか、わかりません。彼女はあまりにも深い否認状態にありましたから。」とAuxierは話す。

振り返ってみれば、2016年は休養すべきだった、とゴールドは言う。しかし五輪が迫っていたため、彼女は軌道に乗りつづけようとしていた。
「助けが必要だってわかってもらいたくて、見てもらいたい。でも助けを自分から求めたくはない。だから地獄みたいな日々でした。」

そのうわべは、2017年のコロラドスプリングズでのキャンプで脆くも崩れ去ることになる。
ミシガンに自らを隔離していたため身体の出来上がっていない彼女はフードつきのジャンパーと23Kg増量した身体で氷にのぼった。
スピンは失敗、そして長いこと素晴らしいと評されてきたジャンプはドシンと音を立てて転倒した。
おそらく、体重増加よりも大きく失われたものは、彼女の笑顔だっただろう。ジャンプやスピンに負けず劣らず輝いていたその笑顔は、もはや口角にも届かず、ましてや観客席にはまったく届かないものになっていた。

その後批評をした時、ジャッジの何人かは涙をこらえきれなかったという。ゴールドはその批評を、非難と受け取った。
「その時に何かがキレてしまったんです。」と話す。
覚えているのは、号泣し、罵り、ある時点で「私がどんなに助けを必要としているか、誰もわかってくれないの！？」と叫んだこと。
その場にいたジャッジの一人が、この記憶は正しいと証言した。
キャンプのサポートチームの2人が彼女にアプローチし、キャリアを中断し治療を受けることを勧めた。1ヶ月後、彼女は摂食障害の治療施設に入院し、USFSAがその費用を賄った。
入所当初は懐疑的だったゴールドだが、すぐにその経験を良きものとして受け入れた。
「だってこれ以上悪くなることは死ぬことしかなかったし、死にたくなかったから。」

休養を発表した彼女は、その後姿を消した。

「45日間、完全に姿を消しました。とても解放されていました。」
1年間の鬱状態を経験したゴールドには、朝7時から夜10時までスケジュールされた日々は心地よく感じられた。集中的な治療を受け、それには両親とのセッションも含まれていた。父親が麻薬横領の疑惑で医師免許停止処分を受けた頃から、彼女は両親と疎遠になっていた。
最近では、家族との関係は改善している。施設ではProzac(抗うつ薬)の処方を受けたが、自力で漸減し中断した。
今はどんな天気でもリンクにオレンジ色のサングラスをかけていく。そうすると世界が明るく見えるから。

ゴールドがスケートに戻ってきたのは、治療中に経験したような生活のリズムが必要だと感じたからだ。昨年の春、彼女は新しいコーチに師事するためフィラデルフィアに転居した。レステンコートコーチは、彼女の体重を少しずつ戻すよう説得することで彼女の信頼を得た。必ず週に一度は食事を共にすることを義務づけ、最初の食事では飢餓状態でダイエットしないようハンバーガー半分をゴールドに食べさせることに成功した。
6月以降、ゴールドは30ポンド(13.6Kg)以上落とすことに成功したが、それはダイエットというよりも健康的な食生活によるものだと言う。
リンクでは子供たちにスケートを教えながら、ティーンエイジャーと一緒にトレーニングしている。彼ら彼女たちが何を考えているのだろう、と思うことがある。
「私が彼らの歳の時には、半分引退したような精神疾患持ちのオリンピアンは側にいなかったもの。」

復帰は、一から作り直すようなものだ。クリーンな3Lzを決めた時、ものすごい達成感を感じた。
「どれほど素晴らしい瞬間だったか、忘れてしまっていたわ。」
ゴールドが試合に復帰する時、彼女は新しいフリーを披露することになる。母親のサウンドトラックから発見したSara Bareillesの「She used to be mine」を使用したプログラムだ。
人生を歩むゴールドにとって、この歌詞はなぜ一度退く必要があったかを思い出させてくれる。
「彼女は自分に厳しい。彼女は壊れていて、でも助けを求めない。彼女はめちゃくちゃだけど、でも優しい。そして、ほとんどの時間、孤独なの。」

(終)

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