2013年8月15日産経新聞に「米、混合診療求めず 株式会社参入も」との記事が掲載された。この記事の背景を調べてみたので紹介する。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130815/plc13081507590007-n1.htm
 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉をめぐって米国側が今月7~9日の日米2国間協議で、保険診療と保険外診療の併用を認める「混合診療」の全面解禁について「米国は公的医療保険制度の変更を求めない」と述べ、議論の対象としない方針を伝えていたことが14日、分かった。米側は、日本側が懸念した「株式会社の病院経営参入」も求めない考えだ。

 全面解禁は、日本医師会などが「国民皆保険の崩壊につながる」として、慎重な対応を求めていた経緯がある。

 外務省は平成23年11月に「実際の交渉で(混合診療が)議論される可能性は排除できない」との見解を示していたが、政府関係者によると、今年7月に日本がTPP交渉に参加後、過去の交渉の議論を分析しても、混合診療の件は議題になっていないという。

 米側は、昨年3月にも米通商代表部(USTR)のカトラー代表補(当時)が都内の講演で「混合診療を含め、公的医療保険制度外の診療を認めるよう求めない」と表明していた。今回、日本の交渉参加後も、米側の姿勢が変わらないことが明らかになった形だ。

 米側はこれまで、日本国内で米民間医療保険会社の参入などを狙い、日米通商交渉などで、たびたび混合診療の解禁または拡充を求めてきた。

 ただ、公的医療保険制度は、TPP参加国12カ国のうち、ニュージーランドやオーストラリアなど大半の国で導入されている。米オバマ政権自体が公的医療保険制度の導入を進めていることもあり、今回は混合診療そのものを交渉対象としない意向とみられる。

 日本では、政府の規制改革会議が今月22日の次回会議で、混合診療の拡充を最優先課題として取り上げる方針だ。拡充は未承認薬を多く使用する国内のがん患者などから強い要望があり、政府も前向きな姿勢を示している。今回、米側があえてTPP交渉で議題としないのは、こうした事情も背景にあるようだ。

 一方、日本医師会は、混合診療がTPPで交渉対象とならなくとも、国家と投資家の紛争解決(ISDS)条項により、米系企業が日本政府を提訴することで全面解禁に結びつく可能性を指摘してきた。

 しかし、政府筋は「公的医療保険制度は医療に携わる国内外の企業を対等に扱っており、ISDSをテコに全面解禁が認められる可能性はほとんどない」と説明している。
(以上産経新聞記事)

「調査結果」
 混合診療の問題は、昨年10月1日からの「高度医療と先進医療の一本化、承認機関での保険診療との併用」厚労省通達施行で一段落しているからと理解できる。

 混合診療の問題は、2006年日米投資イニシアティブ報告書(9,10頁)に記載されいる。
「日本政府は、公的医療保険制度は基本的に、全ての必要な医療を被保険者に対して保障するとの原則を保持しており、それ故、日本政府は、そのような米国政府の見解を共有していない。この原則に従い、また患者の福利を考慮して、日本政府は、2004(平成16)年12月に厚生労働大臣と内閣府特命担当大臣(規制改革、産業再生機構)の『いわゆる「混合診療」問題に係る基本的合意』に基づいて改革を行うこととした。これまで、6つの必ずしも高度でない新規医療技術が承認された。」として、日本独自の改革を行うことで決着をみている。
http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/n_america/us/data/0606nitibei1.pdf

平成16年12月の政府の合意、「現行制度の枠組での対応は平成16年度中に措置、制度上の整備は平成18年通常国会に法案提出講じる。」としている。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/12/h1216-1.html

平成20年12月の規制改革会議「第3次答申」に対する厚生労働省の拒否回答
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/dl/h1226-12a.pdf

上記厚労省の回答のなかにある「高度医療評価制度」は、下記会議開催案内と一致
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/koudoiryou-hyouka/
このURLにリンクがある通達(平成24年7月31日付け医政発0731第2号、薬食発0731第2号、保発0731第7号)の中で、先進医療を平成24年10月1日より、保険診療との併用を認めることになった。限定的な混合診療と考えられる。
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/koudoiryou-hyouka/dl/tuuchi.pdf
「安全性、有効性等を確保するために一定の施設基準を設定し、当該施設基準に該当する保険医療機関の届出により、又は安全性、有効性等を確保するために対象となる医療技術ごとに実施医療機関の要件を設定し当該要件に適合する保険医療機関の承認により、保険診療との併用を認めることとしている。
1 未だ保険診療の対象に至らない先進的な医療技術(2又は3を除く。)
2 承認又は認証を受けていない(以下「未承認等」という。)医薬品又は医療機器の使用を伴う先進的な医療技術
3 承認又は認証を受けて製造販売されている医薬品又は医療機器について承認又は認証事項に含まれない用法・用量、又は効能・効果、性能等(以下「適応外」という。)を目的とした使用を伴う先進的な医療技術

2012年1月日米経済調和対話と2013年4月USTR貿易障壁報告書においては、医薬品や医療機器の価格決定や認定ラグの問題を追及しているが、「混合診療」の記載がない。
日米経済調和対話
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/24/1/pdfs/0127_01_4.pdf

2013年4月4日USTR貿易障壁報告書11頁は、米国の要求実現が一段落したとの記載と読める。
「2008年12月に実施された医療機器審査迅速化アクションプログラムを評価し、薬事法の改正を促す。」
「日本の償還価格政策への改善要求」
「医薬品については,米国政府は日本政府が2010年に(試行的に)実施した新薬創出等加算制度を歓迎する。2012年4月1日,2年毎の薬価改定において,日本政府は,試行的に導入された新薬創出等加算制度を向こう2年間継続することを決定した。」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/tpp20130404.pdf

米側の「混合診療」の言葉が出てくるのは、上記の「日米投資イニシアティブ報告書」(経産省)なのだが、外務省の「成長のための日米経済パートナーシップ」には記載が見あたらない。上記USTR貿易障壁報告書に記載の価格・認定ラグなどは、このパートナーシップに繰り返し要求が出ていた。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/keizai/pship_g.html#03
8年目(2009年)の対話、米国政府から日本政府に対する要望書(和文(在京米国大使館ホームページへリンク))の詳論10
http://japan2.usembassy.gov/pdfs/wwwf-regref20081015.pdf

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