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GertieTime · @GertieTime

15th Aug 2012 from Twitlonger

『都市と消費とディズニーの夢』(速水健朗)についての詳しい紹介はこちらになります。





良いところと致命的に悪いところのある本です。都市計画の本としては、ベンヤミンのパッサージュ論も目配せしつつ、ショッピングモールに現代的意義を見出そうという論旨でいたって啓蒙的です。ただしディズニーに関する部分は論旨の装飾にすぎず、類例にさえなっていません。特にウォルトのエプコット構想に関してはその多くを翻訳された『創造の狂気』に負っており、我田引水でエプコット構想そのものを矮小化し湾曲しています。


●良いところ:「田園都市」としてのエプコット構想を明示化した。

まず良いところを述べます。ウォルトの本棚にはなぜ『明日の田園都市』という都市計画の本があったのかがよくわかるように書かれています。著者のハワードが提示した「田園都市」という言葉は今では、自然との共生的都市を意味するようになりましたが、本来の意味は違いました。それは住宅地と農地をセットに構成されており自給自足できるミニマムな構造をさしていました。いわば日本の里山をもっと機能化させたような都市といえるでしょう。エプコット構想は居住区と商業地区がハブ構造で配置されているだけではなくプラント化された植物栽培や食肉の生産の可能性についても考察されていました。ギリシアのポリスの広場のようにハブの中心に住人たちの遊戯地区やショッピングモールもまとめられ、一つの都市の中ですべての機能がコンパクト化されていたのです。つまりエプコット構想にはハワードが考えた「田園都市」のアイデアがよりよくいかされていたといえます。


●致命的な悪いところ:エプコット構想を閉鎖的で矮小化させたものにしている。

次にこの書物の致命的な誤りを述べます。ウォルトディズニーがエプコット構想を「飛行機」でしか行けないような地域に限定隔離することで移民対策や犯罪者流入を防いだと我田引水している点です(92~94頁)。どうやら速水氏はエプコット構想が単一でローカルなものであると考えているようです。

ウォルトのエプコット構想は、その名前の通りこの実験都市を世界の至る場所に増殖させていくことでした。飛行機は必要ありません。エプコットは自給自足できる都市のユニットで、いわば一つの細胞のようなもの。細胞が隣接しあうように、自給自足できる都市がいくつも連鎖しながら都市の細胞の集合体を作ろうと考えました。やがて細胞が新陳代謝によって入れ替わるように都市のユニットも入れ替えることができると考えたのです。こうした観点がメタボリズムの理念に親和的で、しばしば建築の分野でも関心がもたれる所以です。

これは明らかに速水氏が「ルイス・マンフォードによる二十世紀の最大の発明は「飛行機」と「田園都市」」という意見へ強引にエプコット構想を結びつけようとして(103頁)無理やりに関係のない「飛行機」で論を組み立てたために起きた綻びといえるでしょう。大変残念なことです。確かに現在の遊戯施設としてのエプコットのあるウォルトディズニーワールドへは「飛行機」をつかわないと大変かもしれませんが、ウォルトが夢見ていたエプコット構想はもっと豊かなものです。

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