voyager1977

voyager1977 · @voyager1977

11th May 2012 from Twitlonger

 蔵出し。
 サイエンスアゴラ2006という3年前のイベントの速記録です。
 http://www.scienceagora.org/scienceagora/agora2006/
 
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 日本学術会議 科学と社会委員会 科学力増進分科会 主催
 「SFによる科学コミュニケーション -『日本沈没』を題材に」
 2006年11月26日(日)17:00~19:00
日本科学未来館
 
 ゲスト 
 小松左京
 
 パネリスト 
 毛利 衛(日本科学未来館館長、日本学術会議会員、科学力増進分科会委員長)
 平 朝彦(海洋研究開発機構理事、日本学術会議会員、科学力増進分化会委員)
 元村有希子(毎日新聞科学環境部記者)
 
 司会
 鈴木晶子(京都大学教授)
 
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 小松:(「日本沈没」執筆の背景には、戦争体験があったとの話のあと)、毛利さんは終戦の年、昭和20年には何歳でしたか?
 
 毛利:えー、私はー、まだ生まれておりませんでした(笑)。
 
 小松:あら、そんなにお若いの。
 
 コロンブスが船出した時、地球は丸いという事実は知っていたが、間違った地球図を用いていたという話。
 
 今回のタイトル「アゴラ」という言葉を聞いて懐かしく感じた。メンタル(うつ病)の治療を受けていた際、「アゴラフォビア(広場恐怖症)」という症状を持つ人がいると聞いた。その逆が「claustrophobia(閉所恐怖症)」です。今日は、この会議室とトイレを行き来するたびに、その両方を味わえる(笑)。
 
 恐竜の生きていた時代には、地球の重力が小さかったのではないかという説がある。あの関節構造では、あの巨体を支えられなかっただろうという計算がある。
 
 日本は地震が多い、島一つ消えた伝説があちこちにある。
 
 深海探査は、最初はバチスフィア/潜水球ではじまったが、洋上から吊り下げる鎖の重さが壁となって、のちに自立型のバチスカーフ/潜水艇が登場した。「日本沈没」に登場する“しんかい”…、違った“わだつみ”というのは潜水艇です。
 
 地球科学にはまだまだ新しい発見がこれからもありそうです。退屈することはなさそうです。
 
 
 平:「日本沈没」をいま読むと、根本的な科学の進め方というのが正確に書かれていて、それは30年後のいまと全く同じなんです。綿密な取材が行われたことをうかがわせます。
 
 一昨年、樋口監督とスタッフの方々が私のところに来られて、シナリオを読んで日本列島の沈め方で間違いがないかと尋ねられた。私は、これまで日本列島の誕生を研究してきたので、どちらかというとあまり沈没させたくないなあと思いました(笑)。それから、なんとか探査船「ちきゅう」を登場させられないかと画策しました(笑)。今回の樋口版には3つの魂、メッセージを込めました。
 
 1.30年にわたる地球科学の成果を盛り込む
 2.技術の成果としての「ちきゅう」の活用
 3.「科学の勝利」を描く
 原作下巻の最後には「第一部 完」とありました。小松先生の原作は、日本民族のアイデンティティを問う、非常に重い物語でしたが、今回は「科学の勝利」を描きたかった。
 
 
 毛利:国が科学研究に大金を投資しています。それを一般の人に理解してもらうための施設として、日本科学未来館があります。科学がわかると世界がわかる。
 
 「日本沈没」本編はまだ見ていないのですが、先ほど見た映画予告編だけで、涙が出そうになりました。ただ、最新の地球科学の研究を盛りこんで描かれてはいますが、「日本沈没」という事態は何百万年という単位の話で、明日にある話ではない。
 
 SFには、科学研究について人々の興味を引いたり、モチベーションを与えてくれる長所があります。しかし、危険なところもあります。物語の中で、どこまでが本当の科学でどこからがフィクションなのか、一般の人がわからないかもしれない。科学の解説のために、SFにどこまで依存していいのかという問題があります。
 
 
 元村:私は、映画館で封切後すぐに見て、映像に引きこまれました。映画が終わって、映画館の外に出て、昼間の明るい街を見て、「ああ良かった。日本て無事だった!」と実感しました。
 
 この物語は、日本という国の危うさを描いています、ひび割れ/断層の上に住んでいるという現実を反映している。地震災害などの危険性を「新聞記事」という形式では表現できないやり方でダイナミックに描けるのが映画の醍醐味です。
 
 それから、理系の登場人物たちが活躍する所がいい。小野寺もそうですし、田所先生はかっこ良すぎるけどいいです。ああいう先生は実際いないんですが(笑)。
 
 平:(苦笑)
 
 元村:あっ、平先生はかっこいいです(笑)。
 それから、女性大臣がよかったですね。
 
 小松:本当に。ああいうところが、これまでの日本映画にない樋口監督の新しい部分だと思った。
 
 元村:新聞は起きたことを正しく伝える使命を持っています。予防・防災知識・専門家の意見を正しく伝える。例えば、国の発表している地震発生確率というものがあります。「宮城県沖では今後30年間に8%の確率で地震が発生する」といった。天気予報の感覚だと8%というのは大したことないですが、地震業界ではA級の危険度なんです。だから、ただ「8%の確率です」と伝えるだけでは不充分で、その数字の読み方も一緒に伝えないといけないんだと思います。
 
 雲仙噴火の際、私は福岡管区気象台担当の記者でした。火山の先生に話をうかがうと、「予想されるのは土石流と火砕流だ」というのです。土石流はわかりますが、火砕流というのはそのとき初めて聞く言葉でした。調べると、ベスビオ火山の噴火の際に発生したとある。その先生も、教科書でしか知りませんでした。発生すると新幹線より早いので、逃げられない等……。
 
 2週間後、火砕流が発生しました。自分は、その危険性を新聞できちんと伝えられていただろうかと自問させられました。
 
 寺田寅彦の言葉を引用しますが、「怖がりすぎること、怖がらないことはた易い。しかし、正当に怖がることは難しい。」といっています。適切に怖がることの大切さ。
 
 最後に、1973年に発表された「日本沈没」は、人材を育てたという意義がありました。地球科学の研究者には沈没世代の人たちというのがいる。微力ながら、自分もそういった面で協力できればと思っています。
 
 
 小松:毛利さんに聞きたいんだが、ライカ犬というのは地球に帰ってきたんでしょうか。
 
 毛利:えー、……戻ってきたかというと。きっと、一匹でさびしく飛行した後にライカ犬は地球には戻ってきて土になったと思うんですが……。(再突入に耐えるカプセルではなかったので、生命維持装置が停止して死亡した後、カプセルごと大気圏で燃え尽きた) あまり知られていないんですが、ライカ犬というのはメスだったんです(笑)。
 
 小松:どうせならオスの犬も一緒に連れていってやれば良かったのに。そうすれば、初の「地球外妊娠」になったかもしれない(笑)。タロとジロというのもあったが、ライカ犬のことを思うと胸が痛くなります。
 
 今回の映画には、大きな猫が出てきた。なんと言ったかな。
 
 平:ゴエモンです。体重が20㎏もあって、「ちきゅう」ではスタッフ全員で扇いでいたという(笑)。
 
 小松:無重力体験を長いことしていると、頭がおかしくなってくると聞きますが、毛利さんはどうでしたか。(会場笑)
 
 毛利:私の場合は、おかしくなるまでは宇宙にいなかったです(笑)。地球上の生物は、地上で暮らすようにできています。しかし、いずれは、宇宙に適応した生物が出てくるんだと思います。
 
 小松:阪神大震災のときに、犬が地震を予知したという話があった。こういうのは地震予知犬とでもいうか。
 
 
 鈴木:いま京都大学では、30ほどのゼミに10人づつ中学生が入って学んでいる。この試みが始まる前に、「いまどきの子供は15分に1回ギャグを入れないと集中力が保たない」と脅かされていて(笑)、それなら面白い授業やってやろうじゃないか、と。
 
 授業では、わかりやすく、ということを心掛けていますが、レベルは下げません。子供相手だからといって、手を抜くと子供はすぐに見抜きます。
 
 物語と科学の融合がサイエンスフィクションだと思っています。
 
 
 小松:阪神大震災の死者は6,500人だった。関東大震災は10万人くらいだったろうか。
 震災直前の1923年8月23日に国会に「※※法」(放送法?)が提出されて、同年12月30日に法案が通過した。1924年にNHKラジオ/JOAKが開局した。震災の復興とラジオの関係。
 
 
 元村:小説版を読んで、リアリティを感じた。数値やモデルが多く登場し説得力があった。今の目で見ると、この小説は30年前に阪神大震災を綿密に予言していた。
 
 小松:被害の想定については、空襲の被害をずいぶん調べました。
 
 
 元村:巧みな情報操作の様子が描かれている。田所博士のテレビ出演による免疫効果や、総理大臣の提唱する「海外雄飛」のキャッチフレーズ、現実にあってはいけないことだが、リアルだった。ある朝、各新聞者の代表を呼んだ朝食会の席で沈没第一報の相談をしている描写。ありそうだなと思いました。一体どんな取材をされたんでしょうか。
 
 
 小松:マスコミの描写には、「アトム」(原子力業界紙)記者時代の経験が生きた。   
 
 震災の教訓としては、耐震建築をしっかりすることだ。江戸時代の火消し組織というのは非常にしっかりしたものだった。自主防災、消防団といったものの整備を努力すれば、安全な国にできると思う。
 
 
 毛利:子供に飽きさせないためにはどうしたらいいかというのは、難しい問題です。
 いっときの興味を引くことはできるんです(大学のゼミ時間だけなど)。しかし、興味を持続させるのは難しい。いま、未来館では「科学研究者のスター」を作ることを目指しています。人気SF作家のような存在といってもいいかもしれない。
 
 科学(地震災害等)を語るときに注意しなくてはいけないのが、安全と安心は違うということです。
 
 安全というのは、統計で「100回中20回は失敗する」というようにデータ化できるものです。安心というのは、人の心です。先ほどの「日本沈没」の予告編を見ただけで私なんかは涙が出ました。まだ、本編は見ていないのですが。それぐらい人の心を動かす力があった。人の心、こっちに重心を置いて科学を語ろう、広めようとすると危険があります。
 
 例えば、不安感につけ込んで「テロが来るから手を打たなきゃ」といった国家による操作が入り込む可能性がある。安全と安心、どこに重心を置くかというバランスの問題があります。
 
 
 平:毛利さんが「日本が沈没するなんて自分の一生ではまず起こらないこと」と仰っていましたが(笑)、ちょっと反論をしてみたいと思います(笑)。
 南西諸島というのがありますが、あれはほとんど沈んでいる列島なんです。頂部が海の上に出ているだけ。沖縄トラフに引っ張られていることによる。
 日本列島は逆で、3,000メートル級の山岳があったりして対照的です。これは列島が(プレートに(?))圧縮されていることによる。
 圧縮から引っ張りへの転移というのは、数千年程度の間に起こることかもしれない。
 日本を沈没させるのは意外とたやすいんです(笑)。
 
 第2外国語でドイツ語を学んだが、今ではおぼえていない(笑)。自ら積極的に参加したことでないと覚えない。子供たちには、自ら体験させる必要がある。
 
 小説「日本沈没」には、ステロタイプでない悩み苦しむ科学者が描かれていた。
 
 
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 ここで会場からの質問
 
 Q1(男性):いま日本が沈んだら、救ってくれる外国はあると思いますか?
 
 小松:その質問に対する回答を得るためには、他の民族の歴史を調べてみないといけない。ユダヤ民族など。私は楽観主義的かもしれないが、世界は成熟してきていると思う。
 
 自分が大学を卒業する頃には、米ソがメガトン級水爆を抱えてにらみ合っていた時代だった。
 
 日本には世界に誇る技術がある。たとえば、1964年の東京五輪のときに開通した東海道新幹線。今に至るまで、決定的な事故は起きていない。1973年にオイルショックが起きたときは、世界でも珍しい「プロパンの活用」という新たな対策を考え出した。概して、「足らない」ということが勇気と努力の原因になってきたと思う。
 
 今後、阪神大震災級の地震が発生しても、数千人規模の犠牲が出ることはもうないと思っている。予知技術が進んでいることが大きな理由。
 
 旱魃や冷害でも大きな被害が出なくなっている。
 
 日本という国は、春は桜、秋はもみじ、というように国土の豊さが特徴だと思う。
 
 
 毛利:質問の意図がよくわからないが、過去を振り返るとヒントがあると思う。地震などの時に、各国各人が助け合ってきた歴史がある。人を助けるというのは余裕がないと難しいことだ。自分を犠牲にしてまで助けるということは、例外的でなかなか無い。今、日本が世界にどれだけ貢献しているかということが大事だと思う。今後の環境問題での貢献が非常に大切だ。
 
 
 Q2(女性):アゴラを2日間にわたって見てきました。科学に抜けていることが2点あると思った。それは、メディカル(医学)と建築です。例えば、鉄筋建築については東大では工学部がカバーしている。木造建築はというと、農学部だ。文字化されていないことで、学問としてみなされていない(意訳)。 建築は数学の上に成り立っている科学だ。姉歯建築士の問題などもあったが、新聞等でももっと取り上げて欲しいと思う。
 医学については、マスコミは悪いこと(マイナスの側面)しか言わない。楽しい話をもっとして、興味を引くようにもできると思う。
 
 
 Q3(男性):私は、広島でSFコン(大会)を開いたこともあるSFファンです。現在は、愛知県でハイブリッド車を研究しています。愛知のメーカーでは、見学の子供にモノ(実物)を見せる工夫をしています。
 
 先程、毛利さんがSFの危険性ということを仰られていました。SF小説でジョー・ホールドマンの「終わりなき戦い」というものがあります。これは、ベトナム戦争を下敷きに宇宙人との戦いを描いているのですが、地球人の兵器の性能が悪い様子が描写されていたりします。兵隊が戦地に出る前に輸送途中に事故で死んでしまったりする。
 
 科学の問題点を指摘するのは、SFの長所だと思います。小松先生の発言には影響力があります。SF大会等で若い作家に提言してほしいと思います。
 
 
 毛利:手品をみせて科学実験といったりする例があります。それ本当に科学? と疑問に思ってしまう。単なる興味を引くことだけではなく、教える側もよく考えないといけない。SFでは、熱力学の法則に反する永久機関が登場したりする。現実世界ではとんでもない間違いだが、SFでは可能だ。何が事実で何が創作か、受けての問題。
 
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 日本列島が沈没してゆく10ヶ月間の日本人の意識の変容過程の描写について。
 
 元村:「日本沈没」もまた科学の限界を描いたドラマだと思う。人間はそれでもがんばる。だから心を打つ。ハリウッド映画とは違う。
 
 毛利:我々は何を研究しているのか。宗教や風水といったものが与えてくれる「安心」では解決できない問題を研究している。1+1=2 というように再現性がある確かなものが科学です。21世紀の問題を解決する手段です。SFにはモチベーションをもたらしてくれる重要性はあると思う。人文科学や芸術にも科学の手法を取り入れたらいいと思う。
 
 小松:アトランティス大陸の伝説。種痘という発想はすごい。防疫の話。ネイティブアメリカンは天然痘とインフルエンザで滅んだ。カミュ「ペスト」。戦後のロンドンでペスト患者が発生したという記事。科学にもモラルが必要という思いが「復活の日」を書かせた。
 
 アメリカには禁酒国だった時代があるが、今や禁煙国だ。ひどい(笑)。
 
 新大陸が旧世界にもたらしてくれた4つの恩恵がある。トウモロコシ、ジャガイモ、タバコ、唐辛子だ。トウモロコシ以外は、ナス科の作物だ。
 
 ラパス空港、標高4,000mで高山病になった。コカの葉で楽になった。コカの葉は、インディアンの適応の知恵だ。
 
(おわり)
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 元村さんのコメントは、会場の反応もよかったと思います。それに引き換え毛利さんは…、立場上の発言に徹しているんだろうとはいえ、つまらなかったですね^^;。本当は、そういう人じゃないということも漏れ聞くだけに残念なことです。
 
 
 イベント後の帰り道、船の科学館前でバスを待っている間に、暗闇の中にぼんやり見えた南極観測船「宗谷」を見て、タロ、ジロ、国際地球観測年/IGYの遺物だな…とちょっと感慨にふけりました。
 
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