案件名「放射性物質汚染対処特措法施行規則改正案に対する意見」
【1】なまえ
【2】じゅうしょ
【3】でんわまたはメールアドレス
【4】意見:
・意見の該当箇所: 添付資料「放射性物質汚染対処特措法施行規則改正案について」の「2.改正の内容」の1行目〜3行目。
・意見の要約:本改正案に反対します。
・意見及び理由:
(1)パブリックコメントの受付期間を7日間とするのは不適切であるのみならず,実質的に行政手続法39条に違反するおそれがある。
 本パブリックコメントの対象は廃棄物処理という専門的事項であり,市民や団体が適切に見解を表明するには,ある程度の準備と調査が必要不可欠である。それにもかかわらず,7日間という短期の期限を設定するうえで説得力のある理由は見当たらない。
 とりわけ今回の改正資料は,インターネットで報道発表資料(http://www.env.go.jp/press_r/15080.html)を閲覧できる環境にない限りは,環境省で閲覧するか,郵送してもらわないと実際に見ることができない。インターネット環境のない関東圏外の居住者は,実質的には資料を郵送で調達するしかないが,かりに4月3日にパブリックコメント募集のお知らせを見た沖縄の居住者が翌4日に封書で申し込んだとしても,環境省に到着するのは早くて6日である。当日のうちに送り返されるとしても,実際に改正資料を入手しうるのは早くて8日であるから,検討の時間は1日しか残されていない。これでは,とても上記のような準備と調査は不可能である。
 そしてさらに問題なのは,郵送で意見を送る場合である。先の例で,意見は9日に到着しなければ無効なのだから,資料が到着した当日たる8日のうちに意見をまとめて送付したとしても,沖縄からでは9日のうちに到着せず無効になる。全ての市民がインターネット,電子メール,ファックスを使える訳ではないのだから,この期限設定は,遠隔地の居住者から実質的に意見提出の可能性を奪うものであり,実質的に行政手続法39条の趣旨に反し,違法の疑いが強い。

(2)改正の根拠自体が不充分である。
 今回の改正の根拠は,「再開された事業活動に伴い生ずる廃棄物を対策地域内廃棄物として国が処理を行った場合、汚染廃棄物対策地域外の事業者との競争上の不公平が生ずることが考えられます。このため、このような不公平が生ずることのないよう対応が必要となっています。」という点に求められている(http://www.env.go.jp/press_r/15080.html)。
 しかし,競争上の不公平を是正する方法は,改正案のように,事業廃棄物を対策地域内廃棄物から除外する方法に限られる訳ではない。考えられる選択肢としては,次の(a),(b)がある。
(a)対策地域内廃棄物は一括して国ないし地方公共団体の処理に委ねつつ,事業者に対しては,通常の事業廃棄物に要する処理費用を別途負担させるという方法が考えられる。
 対策地域内廃棄物は放射能に汚染されている可能性が高いことに照らせば,むしろこの方法をとる方が,放射性物質汚染対処特措法1条の趣旨にも合致する。このような徴収システムの設置を前提とすれば,そもそも今回の改正は根拠を欠くことになる。
(b) 放射能漏れ事故以来,地域内の業者は長期にわたり事業活動を阻害されているため,事業活動の再開に当たっても,他の地域の事業者と同等の競争条件を確保できているとはとても考えられない。
 本来であれば,地域内事業者が事業活動を再開するに当たって,何らかの公的援助を確保して初めて,他の地域の事業者との競争条件を公平化できると考えられる。
 この事情を考慮すれば,少なくとも事業準備から数年間は,事業廃棄物の処理費用の全てを,国ないし地方公共団体負担とすることは,むしろ実質的な競争条件を公平化すると評価しうる。そして,この評価を前提とすれば,そもそも今回の改正は根拠が存在しないことになる。

(3)本改正案は,上位法たる放射性物質汚染対処特措法に実質的に反していること。
 放射性物質汚染対処特措法は,その1条において,「事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的とする。」と明確に本法の目的を規定している。そして,避難指示解除準備区域内の事業廃棄物は放射性物質により汚染されている可能性が非常に高いため,当然に人の健康と生活環境に影響を及ぼす可能性が高い。
 ところが本改正案は,健康と環境への影響低減という上位法の目的利益よりも,事業者間の公正競争確保という利益を優先し,上記事業廃棄物について例外扱いを認めるものである。そして,事業者間の公正競争確保という利益が上位法の目的利益を上回るとの判断がこの例外扱いの前提にある。
 しかしこの判断は,明らかに放射性物質汚染対処特措法1条に実質的に違反しているため,本改正案は違法の疑いが強い。(2)で示したように,事業者間の公正競争確保という利益は別の方法でも配慮できることを念頭におけば,このことは一層妥当する。

(4) 本改正案は,上位法たる放射性物質汚染対処特措法に形式的にも違反している可能性があること。
 放射性物質汚染対処特措法11条1項は,「環境大臣は、その地域内において検出された放射線量等からみてその地域内にある廃棄物が特別な管理が必要な程度に事故由来放射性物質により汚染されているおそれがあると認められることその他の事情から国がその地域内にある廃棄物の収集、運搬、保管及び処分を実施する必要がある地域として環境省令で定める要件に該当する地域を、汚染廃棄物対策地域として指定することができる。」と規定する。
 この規定により環境省令に委託されているのは,特定の要件を示して汚染廃棄物対策地域を指定する権限である。
 また,同法13条1項は,「環境大臣は、汚染廃棄物対策地域を指定したときは、当該汚染廃棄物対策地域内にある廃棄物(当該廃棄物が当該汚染廃棄物対策地域外へ搬出された場合にあっ ては当該搬出された廃棄物を含み、環境省令で定めるものを除く。以下「対策地域内廃棄物」という。)の適正な処理を行うため、遅滞なく、対策地域内廃棄物の処理に関する計画(以下「対策地域内廃棄物処理計画」という。)を定めなければならない。」と規定する。
 この規定により環境省令に委託されているのは,汚染廃棄物対策地域内にある廃棄物のうち,一定の要件に該当するものを対策地域内廃棄物から除外する権限である。今回の改正案は,この権限に基づくと思われる。
 しかし,条文の構造上,同法13条1項は同法11条1項にもとづく地域指定を前提としているため,同法13条1項にいう「環境省令で定める」ための要件には,汚染されているおそれがないという要件が当然に含まれると解される。
 この解釈を前提とすれば,本改正案は,形式的にも上位法たる放射性物質汚染対処特措法13条1項に違反していると評価しうることになる。付言すると,この解釈のもとでは,放射性物質汚染対処特措法施行規則3条1号にいう「解除後に…生じた廃棄物」は汚染されているおそれがあるため,これを同法13条1項の「環境省令で定める」対象とする同規則3条2号自体がすでに上位法に違反していると評価される。
 なお,この解釈を前提とすれば,本パブリックコメントが送られている事実は,将来,本改正により区域外に放射性物質が拡散して市民に何らかの損害が生じた場合において,国家賠償法1条の要件たる過失の評価根拠事実となりうる。

(5)上記のように,今回の改正案はそもそも形式的にも実質的にも根拠が疑われるものであるが,かりに改正案に一定の合理性があるとの前提に立つとしても,対象となる廃棄物が対策地域内廃棄物から除外されることにより生じるリスクに対応したシステムを設ける必要がある。
(a)まず,「通常の事業活動に伴う廃棄物」と「除染結果としての廃棄物(除染瓦礫を含む)」を区別したうえ,前者に後者が含まれないようにするシステムを法的に担保しておくことが絶対に必要である。
(b)次に,産業廃棄物の不法投棄による被害が後を絶たない現状に照らせば,不法投棄や不適正処理に対応するためのシステムを併せて法定しておくことが絶対に必要である。とりわけ,避難指示解除準備区域からの事業廃棄物は,放射性物質で汚染されている可能性が高いことからすれば,このことは一層妥当する。
 たとえば,避難指示解除準備区域内で活動する廃棄物関連事業者は登録制とし,企業名,代表者名,本社所在地等の登録を義務づけるとともに,個別の契約内容と具体的な処理結果を一定期間ごとに国または地方公共団体に報告させるシステムを設けることが考えられる。
 これらのシステムは放射能汚染の拡散を防止するうえで必要不可欠であり,省令の改正では対応できないとすれば,法律そのものを改正すべきである。

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