なんか、某掲示板で色々書いている人がいるとの報を受けてみてきました。

>「なぜメイトレがローカル線の恒久的・継続的な活性化につながるのか」は、ぜひ聞きたいですね。
>「なぜ「萌え」がローカル線の恒久的・継続的な活性化につながるのか」でもいいと思います。

こういう疑問が出るのは、前にこちらで記載した「ヒットの法則」を全く理解していない人が生じる典型的な疑問でしょう。
しかしある意味、失敗する活性化策を行う人もまたこれと同じような発想を持っている人だといえます。
要するに、「物(鉄道ならサービス)を売る」「宣伝をする」というのがどういうことなのか、全く分からない人が抱く疑問の一つだといえるでしょう。

いくつか事例で見て行きましょう。
「自動車」に対して消費者が求める物はなんでしょうか?
「安全」「燃費が良い」「カッコイイ」などでしょうか。
では最近トヨタがやっている、ドラえもん実写版CMは「安全」「燃費が良い」「カッコイイ」とどう繋がるでしょうか?
あるいは携帯電話に求める物はなんでしょうか?
「料金」「エリアの広さ」「繋がりやすさ」「端末の性能」でしょうか。
では、ソフトバンクの白い犬のお父さんは「料金」「エリアの広さ」「繋がりやすさ」「端末の性能」とどう繋がるでしょうか?
あるいは缶コーヒなら、「おいしさ」が消費者が求めるニーズでしょう。
では、サントリーBOSS缶コーヒーの宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズは、何をどう「おいしさ」を伝えたでしょうか?
事例を出せばキリがありませんが、これらのCMやキャンペーンは、消費者が求める商品ニーズとやっているCMやプロモーションが全く一致しておらず、このCMを見たか

らといって、「商品を買いに行こう」などという人は現れないCMです。
企業はそんな無意味なことに、数十億、数百億円と投じます。
その理由が分かる人は、ヒットの法則を理解している人です。
それがなぜなのかさっはさっぱり分からない人はヒットの法則を理解していません。
ローカル線で言えば、活性化できない人だということです。

これらのCMに共通することがあります。
それは「意味わかんねぇ」ということです。
こういう意味のわからないCMを放送すると、確実に「見た、あのソフトバンクのCM」「見た見た、なにあの家族?犬がお父さんでお母さんが日本人?ありえないよね」と

いう会話が随所で勃発します。
目的はそこで。
そうすることで、色々なところで「ソフトバンク」が話題になり、「ソフトバンク」という認知が向上します。
トヨタのCMにしても、「トヨタのドラえもんの実写版とか、あれどうよ」とか話題にしませんでしたか?
一部であのCMは不評だとニュースになっていましたが、それもまたメーカーとしては歓迎、「トヨタドラえもん実写CM不評」と報道されると、確実に「何々、どんなCM

」とみんな見ようとします。
不評というリスクもありますが、話題というメリットの方が大きくなるわけです。
こうやって注目を集めている状況で新商品の宣伝をすれば、実によく浸透し消費者に記憶されます。

この法則が数値で出ています。
携帯各社の宣伝費で、KDDIとソフトバンク、どちらが多く宣伝費をかけているでしょう。
ある年度ではKDDIは270億円に対して、ソフトバンクは200億円、一方CM好感度はソフトバンクが1位に対して、KDDIは10位未満という結果です。
「KDDIのCM」といわれて皆さん何かパッと思い浮かぶでしょうか?
お金をかけてもインパクトのない事をやっても何の効果も無いという象徴です。
そしてKDDIは加入者激減にあえぎ、かつてピークだった加入者数を取り戻せていません。
加入者数だけで見れば(デジタルフォン時代含めて)再後発のソフトバンクはまだまだ少ないとは言え純増数を見ると近年独走状態です。
これはCM展開が大きく功を奏していると言えるでしょう。

この法則を高度に利用しているのが芸能界です。
例えば映画や書籍の発売だという前後になると、どういうわけか出演者のスキャンダルが出てきます。
特に色恋沙汰の話はやたらとで出来ます。
それが出るのは殆ど、そう言う映画や書籍の発売記者会見の直近です。
そうすると、テレビ各社は映画や書籍のの記者会見会場に殺到、レポーターは映画の話題とからめて強引に「プライベートのお相手は~」なんて質問を浴びせます。
その様子を「熱愛が発覚した女優の○○さんが『映画○×△』の記者会見に表れました。」と紹介し、インタビューの後ろではしっかりと看板やポスターが映っています。
つまり、スキャンダルは宣伝のために意図的に流しているとも言えるわけです。
もちろん全部がそうとはいいませんが、全部が違うともいえないでしょう。

活性化できない、社長公募しても何も変わらないローカル線に共通するのは、この「ヒットの法則」を全く理解していないことです。
そこで思い付きで何かイベント列車を走らせて見たり、ツアーをやってみたりしますが、どうすれば話題になるのかという事を全く考えておらず、思い付きでやってしまうた

め、何の話題にもならない、あまりにも無難すぎてマスコミも報道しない、結果、沿線の人にすら「知らない」と言われてしまうわけです。
ではメイドトレインはどうでしょうか?
メイドトレインを走らせたからといって、その後お客さんがワンサカ来るなんて事はありません。
ですが、あまりにもローカル線と無縁で「意味わかんねぇ」と皆さん思ったでしょう。
そこが狙いです。
ソフトバンクやトヨタ、サントリーのBOSSと同じ法則です。
そして「メイド喫茶」というタダでさえマスコミに話題にされやすい素材を使った事と、あまりにも突飛なことであったため、多くのマスコミで報道されるに至ります。
それが、日本のオタク文化を注目していた海外でまで報道されるに至ります。
そうなると、今時なら一斉にネット検索がかけられ、メイドトレインの公式ホームページや、鉄道会社の公式ホームページにアクセスが殺到します。
アクセス解析をしても、テレビで放送された時間帯は一気に数万アクセスまで達し、その後一週間くらいは高いレートが続きます。

これがどういった効果をもたらしたでしょう。
ひたちなか海浜鉄道の吉田社長からある日連絡が来ました。
「どこに行っても、メイドトレイン、メイドトレインと凄い反響だ」と。
結果として、「公募社長は従来の発想をはるかに超えた経営改革をする」というイメージの定着につわがったわけです。
そうやって注目されている状況で何かをすると「ひたちなか海浜鉄道がまた何か始めた」と、更に報道されます。
そこでまた注目され、ホームページで調べたり、記憶に残るという現象を繰り返します。

そもそも人が「物を買う」「サービスを受ける」という時、何を買うでしょうか?
例えば、家族でレジャーに行こうというと、どこに行くでしょう?
多くの場合、知らないところに突然行くという事はありません。
殆どの場合、自分の記憶の中から候補を挙げて選択するという作業をします。
この時候補に出ないと、もう来てくれる事はないのです。
ではどうすればその候補に上げるか、つまり記憶にとどめるか、それがテレビや雑誌、最近だとネットの話題というのもあるでしょう、そうやって接触機会を増やしてやるこ

とが重要だということで。
その最も簡単な方法は大量のテレビCMですが、赤字のローカル線が数百億円かけてテレビCMを大量投入するなんて無理です。
そこで、マスコミを巧みに利用するという発想が重要です。
CMではなくマスコミが大きく報道する話題を作れば、宣伝費ゼロでCMと同等か、場合によってはそれ以上の効果が得られるわけです。
これを「宣伝効果」と言います。

某掲示板に、あるメイドトレインの回の集客が少なかったことを揶揄する書き込みがありますが、メイドトレインを走らせて売上から経費を引いて、それだけで黒字だ赤字だ

と騒ぐのは、これもまたプロモーション戦略という視点が無い発言だといえるでしょう。
売上から経費を引いて赤字だとしても、宣伝効果を考えれば大きくプラスになるわけです。
例えば過去にはビートたけし司会のTBS系の番組「情報7days ニュースキャスター」で1分30秒全国放送されました。
あの番組内で1分30秒テレビCMを打って全国で放送すれば、軽く数千万円はかかるでしょう。
そう考えると、売上から経費を引いて仮に500万円の赤字でも、全くトクをしていると言えるわけです。

これを証明する珍事件が過去にあります。
1985年に、阪神タイガースが優勝したときに騒いだファンが大阪道頓堀に投げ込んだケンタッキーフライドチキンのカーネル・サンダースが、2009年、24年ぶりに

発見されたという事件がありました。
この珍事件に各マスコミは大騒ぎで放送をしました。
その放送総時間分約33時間をCMに換算すると、その宣伝効果は27億2670万円に達したと言うことです。
その後しばらくは、KFCの売上は急増したそうです。
これはKFCが仕掛けたわけではなく、「ひょうたんから駒」の話でですが、川からボロボロのカーネル・サンダースが発見されるという、消費者が求めるであろう「おいし

さ」「食の安全」などとは無縁の出来事が大きな売上に繋がった事例といえるでしょう。
いかに話題になることが重要なのかを証明する出来事です。

つまり、メイドトレインはあくまでそのローカル線を知ってもらう「きっかけ」にすぎません。
「恒久的・継続的な活性化につながるのか」という質問に対してはきっかけですから「つながる」という回答になりますが、「メイドトレイン走らせるだけでお客さん継続

的にたくさん来るのか」という質問にはNOだと言えます。
そもそも赤字になるローカル線はわざわざ沿線観光に来ようなんて人は殆ど居ないか、居ても経営の支えになるような数値ではない所です。
誰も注目されていないところを盛んにアピールしたところで誰も相手にしません。
突然都心のスーパーなどで、聞いたこともない地域の写真展とかやっていても、ピンと来ません。
厳しい言い方をすると誰も見向きもしていないということです。
そんな誰も見向きもしていないところに盛んにアピールしたって、当然誰も見向きもしません。
それを繰り返すのが活性化できないローカル線です。
それがテレビで大きく報道されたところだと、「あぁー、この間テレビでやっていたあれか」と気にするわけです。
そうするとちょっと気になってみる人は居るでしょう。
そこで、様々な観光案内などがあれば、浸透して記憶に繋がり、何かのきっかけに、例えば夏の旅行どこに行こうかと言うような場合に、候補として上がってくるわけです。

では今度は、どうすればマスコミに報道されるのか?という問題です。
秋田内陸縦貫鉄道の前社長若杉氏は、色々なイベントをやっても地元民の方から「そんなこと知らなかった」と言われた件について、プログ中で「マスコミは『やりました』

という報道はしてくれるが『やります』という報道はしてくれない」とコメントしていますが、「絶対にありえない」と断言します。
なぜならメイドトレインは運行前に番組で特集されるほど大きく報道されているからです。
マスコミが事前に報道してくれない理由は単純で、それは報道する価値が無いからです。
逆に言うと、報道して欲しいのなら、報道するに値する価値のある事をしなくてはなりません。
このことを強く意識しているのが、山形鉄道の野村社長です。
http://keiei-online.jp/seminar/succession/post_192.html#attachedDocs
野村社長はマスコミに取上げられるには「すしはどこさ」の法則というのを提唱しています。
す「ストーリー」
し「社会性」
は「初物」
ど「ドラマ」
こ「公共性」
さ「サプライズ」
詳しくは上記URLを読んでいただくとして、この法則にメイドトレインは「完全に一致」しています。

例えば「電車の中で駅弁を売りました」というのはあまりに当たり前すぎてつまらない話です。
そこで、地元で有名だった駅弁を萌えパッケージになします。
奇想天外なこのイベントと、地元の老舗が手を組んだというストーリー性です。
次に、話題が大きい「メイド喫茶」を取上げたという社会性です。
そして野村社長も「一番大事」と言っている「初物」です。
ローカル線の活性化でメイド喫茶をやったなんて聞いたたこと無いわけで、「日本で初めて」「世界で初めて」を実現します。
「ドラマ」については、廃止決定していたローカル線、社長公募して再生をしているという「ドラマ」がありました。
また、行政が出資している第三セクター企業が、従来の発想を超えた経営改革を進めているという「公共性」もあるわけです。
野村社長も地元の商工会などが料亭や居酒屋での婚活したってニュースにならなかったが、フラワー長井線で婚活をしたら、新聞に出るようになったと言っているのと同じで

、秋葉原でメイド喫茶をオープンしてももうマスコミが報じることはありません。
しかし、「公共交通機関でオープンした」という公共性があるから、マスコミは飛びついたわけです。
最後のサプライズも、ローカル線の活性化にメイド喫茶という意外性があったわけです。
このようにメイドトレインはマスコミに報道される法則を完全に網羅しています。
質問にあった「萌え」というのも意外とこの法則性を網羅するわけです。
さすがに「初物」とは言えないまでも、それでも「地域初」はまだまだ行けます。

一方、活性化できないローカル線は常にこの法則を網羅できていません。
例えばやっている事は他社の真似ばかり(初物ではない)だったり、奇をてらって突拍子もない事をしてみてもスリートーや社会性が不明だったり、あまりにも平凡すぎてサ

プライズが無かったりという現象を続けます。
メイドトレインがフジテレビ放送されたときにも、西武鉄道の沿線にアニメスタジオが多くあり、そういった地域の活性化、地域振興の一環としてメイドトレインを走らせた

、大手民鉄ですからこんな事をする時代だというサプライズというで報道されたわけです。
また、一部では「震災で運行できなかったが、震災を乗り換えて一年ぶりに運行」というストーリー性や社会性もあったわけです
(※初回ではないですが、開催数も少ないため初物扱いになっているようです)

こういった顧客の購入心理を体系化した物で、宣伝やプロモーションのバイブルと言えるのが「AIDMAの法則」です。
ウィキペディアにも出ていますし、ネットで検索すれば多数の解説ページが出ているほど有名な法則です。
これは1920年代にアメリカ合衆国の販売・広告の実務書の著作者であったサミュエル・ローランド・ホールが著作中で示した広告宣伝に対する消費者の心理のプロセスを

示した略語です。
Attention(顧客の注意を引く)
Interest(顧客に商品を訴求し関心を引く)
Desire(顧客に商品への欲求があり、それが満足をもたらすことを納得させる)
Memory(顧客の脳裏に記憶する)
Action(顧客に行動を起こさせる)
消費者が商品を購入する、サービスを受けるというのはこのプロセスに基づき行われるという事です。
つまり、ドラえもん実写CMも、ボスのCMも、カーネルサンダース発見も、そしてメイドトレインも、このすべては「Attention(顧客の注意を引く)」に該当するわけです



活性化できないローカル線はこういった法則性を全く理解しておらず、闇雲に何かを始めます。
例えばイベント列車を走らせます。
それはいきなり顧客に「Action」を起こさせようとします。
しかし、その前段階も無く突然そんなイベントを行っても、顧客は注意も関心も示していませんし、社会性もストーリーも無い思いつきイベントを行ってもマスコミも報道し

ません。
マスコミ報道もしない以上、話題になることも顧客に伝わる事も無く、結果としてイベント列車を色々と走らせても地元の方すら「知らなかった」と言われしてしまう有様で

す。
この悪循環を延々と繰り返すのが活性化できないローカル線です。

ただ一つメイドトレンとして残念なことがあります。
それは鉄道会社との契約はあくまで「メイドトレインの運行」の受託だけだということです。
つまり、Attentionから先の事は受託しておらず、後は鉄道会社に任せるしかありません。
具体的には顧客の注意を引いた後、どうやってお客様に魅力を伝えてActionに持って行くのかまでは受託範囲ではありません。
本当はActionまで一括でやりたいところです。

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