『TPP交渉参加問題 暮らしへの影響考える必要あり』|日本農業新聞3月4日

◆取材ノート

 環太平洋連携協定(TPP)交渉参加問題を追って1年半ほどになる。保険や医療、自動車の規格・基準など幅広い分野で規制緩和を求められ、農業だけの問題ではないことが明らかになってきた。だが、一般紙などによる世論調査では、半数近くがTPP参加に賛成している。30年後の日本の姿を描くのもいいが、足元に目を向け、自分の暮らしへの影響を考えることも必要ではないか。

 例えば、都市の若者はどうか。インターネット媒体に、TPPの記事を書いているジャーナリストは「若者はTPPに漠然と不安を感じるが、反対までは踏み込まない人が多い」とみる。同媒体の読者は、「よく言えば自由だが、非正規雇用などで社会から疎外された人」が多いという。

 TPPに参加すれば、そうした若者への影響が懸念される。海外に投資しやすくなれば工場などは賃金が安い他国へ移転する傾向が強まる。TPP参加後、製造業が国内に残そうとしているのは技術開発や一部基幹部品の生産などを行う拠点が中心。外資系企業の雇用増も期待されているが、日本への進出が見込まれるのは一部業種で、恩恵を受けるのは一握りだ。

 食品の価格が下がることが消費者の利益とされるが、JA全中によれば105円のおにぎりのうち、米のコストは24円にすぎない(うち生産者売り上げ分は16円)。米の関税撤廃などで材料費が安くなっても物価への影響は限定的だ。食の安全が揺らぐデメリットも考えなければならない。

 韓国では自由貿易で大企業が得た利益が、国民に分配されないことが問題になっている。多くの若者が米韓自由貿易協定(FTA)の反対運動に参加するのは、暮らしを脅かされる危機感があるからだ。日本の若者も、企業の業績が良くなれば、自分の生活も楽になる時代でないことを知っている。今後、TPP交渉参加問題がヤマ場を迎えるにつれ、幅広い職業や年齢の人が連携し、当事者意識を持ってTPP問題を考えることが重要になる。(千本木啓文)

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